エルはそう思ったが、促されるまま少しだけ考えてみた。へそ曲がりで口減らずな大きな子共――みたいな性格をしたログ――の手を引く自分を想像してみると、つい最近彼と迷子になった迷路が思い出された。

 あのログが、素直について来るとは到底思えない。絶対に何かしら文句を言うか、気付いたら主導権を奪い返して勝手に先導に立っている気がする。

 けれど、何だか、そんな未来が少しだけ可笑しくも思えた。

 迷子になるのは、きっとログの方だろう。エルが慌てて彼を追い掛けて、そうやって一緒に道を探している間に、セイジが真っ直ぐ二人を見付け、スウェンが何食わぬ顔で合流するのだ。ひょっこりホテルマンがやって来て、どうして私を探して下さらないのですかと、そう文句を言うかもしれない。

 そんな叶わない未来を想像して、楽しく感じてしまった自分にエルは苦笑した。

 ログが頭上を仰ぎ、思い出したように顔を歪めて「そういや」と愚痴った。

「あのホテル野郎は、全く使えねぇな。どうにかしろと俺が言った途端、『この木の壁ならあなたの能力で壊せます』とか何とか言いやがって、暴れ狂う木の根の反動を利用して、俺をぶっ飛ばしやがった」
「……じゃあ、このロープって」
「ホテル野郎の私物だ。あいつ、『私に力仕事は無理です』とか言って、ちゃっかりロープの端をセイジに渡したんだぜ? スウェンも『ログが適任だよね』って笑顔で俺を見送りやがった」

 なんとなく想像がつくような気がする。

 エルは抱きしめられたまま、「そっか」と答えて目を閉じた。触れているログの大きな胸からは、心臓の鼓動が頬と手に伝わって心地良くもあった。

 ああ、彼は生きているんだなと、エルは想いを噛みしめた。彼は生きていて、この世界の外に、身体が待っていてくれているのだ。