「どうせ、また迷子になってたんだろ」
「……真っ暗だったんだから、迷子もしょうがな――て、おいコラ。それ以上いうと、マジでぶっ飛ばすぞ」

 方向音痴なのはお前の方だ、自覚して認めろよ大人げないッ。

 エルが拳を固めて睨み上げると、ログが目を合わさぬまま「可愛くねぇな」と短い息をついた。まるで上から目線の物言いに、エルはカチンと来た。

「この際だからハッキリ言わせてもらうけど、お前の方がよっぽど方向音痴じゃん! もし一緒に迷子になったら、俺がいないとお前は迷子のままだからな――」


「だったら、お前が手を離さなきゃいいだろ」


 当然のように言い返され、エルは、ログを訝しげに睨み上げた。

 目が合ってすぐ、腕を掴まれて、太い胸板に押し付けられるように更に引き上げられた。大き過ぎる彼とは普段近づけない距離から、何を考えているのか分からない仏頂面の静かな眼差しで、真っ直ぐ見降ろされた。

「……俺が迷子になるって前提の設定は気にくわねぇが、つまり、お前が俺の手を離さなければ問題にならねぇ。お前からすると、俺は方向音痴なんだろう? じゃあ、お前は俺の手を離すな」
「でも」

 俺がずっと、こいつが迷子にならないよう手を引くって事か? いやいや、普通逆だろ。デカい大人なんだから、普通ならログが俺の手を引くとかそういう……

 そもそも、近いうちに別れなければならないのに、そんな事出来る訳がないだろうとは言えず、エルは言葉に詰まった。きっと例え話なのだと、ひとまず自分を落ち着けて少し考えてみる。