闇の中に飛び込んで来た彼の身体が、ゆるやかに降下を始めた。自然と互いの目が合わされた一瞬、何故か、時間の流れがとても緩やかになったような気がした。

 ログは辺りに目を配る様子もなく、じっと強い眼差しでこちらを見降ろして来た。その表情は相変わらず仏頂面で私情が読めないが、まるで、木々の中に造られた空間には欠片の興味もなく、露骨に、エルにしか眼中がないといわんばかりだった。

 って、なわけないだろッ。

 唐突にエルは我に帰り、慌てて袖口で顔を拭った。

「お前の前で泣いた事なんて、ないじゃん」
「そうかよ」

 ログは興味もなさそうに応えた。下へ到着すると、無造作にエルの腕を掴んで引き寄せ、許可も得ず腰に片腕を回して抱え上げると、ロープの先を握って合図を送った。

 彼の腰に巻かれていたロープが、二人を頭上の出口へと引き上げ始めた。腕一本でよく支えられるなと、エルは、ガッシリと自分を支える彼の横顔を訝しげに見上げた。無駄に大きいから出来る芸当なのか……?