すると、女の子が、少女のワンピースの裾をつまんだ。

「生まれてきて、よかったよ。わたし、お姉さんのこと、好きよ。お姉さんも、その子のことが、とてもすきなんだよね」
「……そうよ。好きなの、愛しているのよ。一人ぼっちでも耐えられるぐらい、私はきっと、あの子の事が好きなの。それなのにどうして、私は普通の『夢守』として、あの子を守り続ける事が出来ないのかしら」

 語る声は次第に震え、少女はとうとう膝の上に顔を押し付けて泣き出してしまった。

「少しずつ、あの子の『夢』の中で成長を促されて、私の歪みは大きくなっていくのよ。いずれ自分の事も分からなくなって、暴走して、私は大切な彼女の『核』を壊してしまうのだわ」
「そのときは、わたしがとめてあげる」
「…………本当に? 本当に、私を止めてくれるの?」

 話の難しさも理解していない女の子は、「うん」と笑顔で肯いた。

「お姉さんは、とてもやさしい人だね。あったかくて、好きよ。だから、泣かないで」
「そう……じゃあ、私がすべてを忘れて、狂気に呑まれてしまったら、きっと私を助けに来てちょうだいね――」

 少女は儚く微笑んだが、涙を拭うと「――なあんてね」と自身の願いを否定した。


 嬉しい、ありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておくわ。私、あなたの事も、とても好きなのよ。私に出来た、初めての友達だもの……


 少女はそう言って、微笑みながら泣いた。

「さぁ。いつまでも、こんな所にいては駄目よ。ここは『死に抱かれる者』と『理』の境界線上にある、それぞれの『夢』の狭間なのだから……」