少女が困ったように微笑み、長い指で女の子の黒髪を梳きながら「無理やり引っ張っちゃ駄目よ、傷んでしまうわ」と言った。その声色は、とても優しかった。

「あなたには、難しい話だったわね、ごめんなさいね」

 女の子の髪を整えてあげたところで、少女が小首を傾げた。

「それにしても、不思議な子ねぇ。あなたは人間なのに、『魂』も『心』も身体に置いてきたまま意識一つで、異界の境界線上まで簡単に入り込んで来るんですもの。どうしてか、どらの世界の影響も受けないで、安定させて馴染ませてしまう」


 エルは、彼女の達の姿をみてすぐ、言葉を失っていた。

 特に語る少女の向こうにいる、艶やかな黒い長髪を持った女児を、エルは誰よりもよく知っていた。オジサンの家の子になってしばらく、何度も鏡の中で見ていた、忘れられない自分の物だった。


 この覚えがある光景も、過去の映像だとは理解していた。しかし、どうして、今まで忘れてしまっていたのだろう?

 エルの過去を再現したまま、少女は女児に話し続ける。