またしても長たらしい説明が始まり、半ば説教のようにまくし立てられて、俺は「へいへい」と適当に相槌を打った。

「俺としてはな、その『力』とやらを使わせたくねぇんだよ」

 こいつと話していても埒が明かないだろうと思った俺は、ふと、『彼』に直接訊けばいいじゃないかと閃いた。

「おい、あとどれぐらい待てば、お前は引っ込んでくれるんだ? この子は、ゴーヤーは食えるのか?」
「『私』は彼女を知らないから、好みも把握していない。『この身体』は骨格と筋肉組織、特に内臓の損傷が激しい。修復を進めなければ危険である状況に変わりはなく、『私』が稼働を止める訳にはいかない」
「ふうん」

 俺は考えなしに、白い袖口から覗いた女児の、小さな白い腕をちょいと掴んで持ち上げてみた。体温を手で確認してみようと思ったのだが、一見すると問題がなさそうな幼子の皮膚の下から、グシャリと肉が崩れるような音がして、途端に悪寒が走った。

 友人の話しを信じなかった訳じゃないが、自分で触ってみて驚いた。

 彼女の幼い身体は、立っているのも不思議なほど、内側の損傷が酷かったのだ。まさか、右腕の筋肉と骨がすっかり壊れてしまっているなんて、誰が気付くだろうか?

 俺がそっと手を離すと、子共は眉の一つも動かさないまま、不自由になった腕を不思議そうに見ていた。

 ああ、何て温度のない眼差しなのだろう。

 俺は『彼』が、生き物を理解しない存在なのだと、ようやく思い知ったような気がした。

 しかし俺は、この時すっかり友人の存在を失念していたのだ。俺が女児に「済まなかったな」と言葉を掛ける傍らで、我慢に我慢を重ねて来たらしい優等生の、堪忍袋の緒が切れる音がした。

「……だから、触るなっつってんだろうがぁぁぁあああ!」

 急ぎ用意されたらしい子共服や、医療道具が詰め込まれたスーツケースが、至近距離で俺目掛けて飛んで来た。