前年に比べて雨量が少ないのだと、度々ニュース見かけるようになったある年の事、十年以上も前に別れたきりだった友人が、俺の元に、死にかけた子共を連れて来た。

 俺よりも二回り以上も若い友人は、相変わらず爺臭い妙齢の落ち着きをしていた。

 玄関先で顔を会わせるなり、奴は青い顔で、手短に用件を告げて説明した。奴の背後に最近は見なかった重々しい雨雲を見て、俺は、このガキを引き取る事になるのだろうな、と思った。

 子共は四歳ほどで、奴が連れて来た時は、血の跡が染みとなって残るワンピースを着ていた。身体中に包帯を巻いてはいたが、しっかりと自分の足で立ち、真っ直ぐ俺の家の玄関先まで歩いて来た。

 こりともしなければ、子供らしい雰囲気もなく、人形のような不気味な冷静さで、その子供は奴の隣に立っていた。

 友人は玄関先で手短に事情を説明したあと、頼まれてくれるかと俺に訊いた。

 どうにも現実感の湧かない話だったが、俺は、引きうける事にした。前例がない訳ではないのだ。軍が作り出した忌まわしい合成生物や、生物兵器の件もあるし、――そもそも俺は、子共を見殺しにしてやれる程、もう若くもなかった。

「驚異的なスヒードで治癒は進んでいるが、やっと形を保っている状態だ。しばらくは、慎重に扱わなければ駄目だからな。『彼』が『良い』というまで、くれぐれも興味本位で触ったり、つついたりしないでくれよ。絶対にだぞッ」

 友人は、語尾を強めた。

 奴は心配性の気があるし、昔から俺がちっとも話を聞かない男だと勘違いしている節もある。失礼極まりない年下の友人なのだ。

「へいへい。――おい、メシはどうするんだ。食わねぇと力も出ないだろ。ちょうど台所にゴーヤーがあるが、こいつは何が食えるんだ?」
「おい。私の話しをちゃんと聞いてくれていたかい? 今は身体の機能がほとんど動かない状況だから、食事を取る行為も無理だ。『彼』がいう『力』とやらが働いる間は、外からの栄養摂取の必要もないから、食事については、身体の機能回復を待ってから行ってくれ」