小さな黒猫は、固いフードはまだ食べられなかったので、離乳食から始まった。
名前は、こちらは案外早くに決まった。ポタロウの件があったから、俺は先に猫の性別を調べたのだが、そいつが雌である事を確認した際に、ピンと来た名前があった。
こいつの名前は、クロエにしよう。
昔、戦争に巻き込まれて死んじまったが、俺の事を唯一愛してくれた立派な母親と同じ名前にする事にした。きっと、賢く優しく育つだろうと、俺は信じて疑わなかった。
クロエは、始めに離乳食とトイレの躾を少しやっただけで、すぐに手がかからなくなった。
ご飯が欲しい時は声を掛けてくるし、甘えたい時は、俺の邪魔にならないか確認したうえで膝の上に乗る。大きくなっても考えなしに辺りを走り回るポタロウとは、大違いの賢さだった。
仔猫は、家の使い勝手に慣れると、ポタロウが自分の尻尾を追い掛ける様子を、座布団の上から、毛繕いしつつ大人びた目で眺めていた。ちょっとシビアな光景だった。
……まぁ多分、猫は賢くて大人びた生き物なのだろう。
俺は、これまでに猫を飼った事はなかったから、近所の婆さんに話しを聞くまでは、雌猫がどんなに大人びた性格の持ち主か知らないでいた。
季節が幾度と巡ったが、二匹と俺の生活は、大きな変化もなく続いた。
ポタロウは随分でかくなったし、クロエは毛艶の美しい成猫になった。クロエは大きくなると、あまり俺の膝の上には乗らないようになり、まるで俺の母親か妻のように傍に寄り添った。
雌猫として一番美しい年頃を迎えた数年の間に、クロエは三回の出産を終え、立派な母親として子育ても努めた。俺には子どもがいなかったから、出産の様子には深く感動した。仔を産んだクロエの瞳には、母親としての深い愛が溢れているような、そんな神聖さを俺は覚えたのだ。
名前は、こちらは案外早くに決まった。ポタロウの件があったから、俺は先に猫の性別を調べたのだが、そいつが雌である事を確認した際に、ピンと来た名前があった。
こいつの名前は、クロエにしよう。
昔、戦争に巻き込まれて死んじまったが、俺の事を唯一愛してくれた立派な母親と同じ名前にする事にした。きっと、賢く優しく育つだろうと、俺は信じて疑わなかった。
クロエは、始めに離乳食とトイレの躾を少しやっただけで、すぐに手がかからなくなった。
ご飯が欲しい時は声を掛けてくるし、甘えたい時は、俺の邪魔にならないか確認したうえで膝の上に乗る。大きくなっても考えなしに辺りを走り回るポタロウとは、大違いの賢さだった。
仔猫は、家の使い勝手に慣れると、ポタロウが自分の尻尾を追い掛ける様子を、座布団の上から、毛繕いしつつ大人びた目で眺めていた。ちょっとシビアな光景だった。
……まぁ多分、猫は賢くて大人びた生き物なのだろう。
俺は、これまでに猫を飼った事はなかったから、近所の婆さんに話しを聞くまでは、雌猫がどんなに大人びた性格の持ち主か知らないでいた。
季節が幾度と巡ったが、二匹と俺の生活は、大きな変化もなく続いた。
ポタロウは随分でかくなったし、クロエは毛艶の美しい成猫になった。クロエは大きくなると、あまり俺の膝の上には乗らないようになり、まるで俺の母親か妻のように傍に寄り添った。
雌猫として一番美しい年頃を迎えた数年の間に、クロエは三回の出産を終え、立派な母親として子育ても努めた。俺には子どもがいなかったから、出産の様子には深く感動した。仔を産んだクロエの瞳には、母親としての深い愛が溢れているような、そんな神聖さを俺は覚えたのだ。