一人と一匹が一緒にいられる時間は、少ない。

 死は現実世界での絶対のルールで、誰もがいつかは必ず死んでゆく。きっと、ここで感じる死の痛みは、悪夢から目が覚めるような安らぎすらあるのかもしれないと思えば、エルの気も、少しだけ楽になってしまう。

 別れの日を考えたくなくて、だからエルは、クロエと楽しいばかの旅の時間に逃げるのだ。

「そういえば誘拐されたのって、もしかして関係者の娘さんとか?」

 深く考え込むと立ち直れそうにもない気配を察し、エルは、気力を取り戻すように思いつきでそう発言した。

 すると、途端に仏頂面の男が肩越しに睨みをきかせて来た。大人しく考え事だけしていればいいものの、という表情に、エルは「何だよ」と思わず睨み返してしまう。

「……研究所の所長の、一人娘だ。名前はアリス、歳は十二。今回の主犯であるマルクは、アリスの父親んところの助手だ」
「父親の助手? じゃあ、娘さんの事も知っていた人ってこと?」

 エルが素直な疑問を返すと、スウェンが苦い顔をした。