サトウキビ畑の親父に、気まぐれのように軽い調子で、半ば強引に畑仕事を手伝される事がある。

 賃金の発生しない若い労働力が欲しいのだろうが、別に俺は、暇を持て遊んでいる訳ではないのだ。ただ仕事の都合上、持て余す時間が、民間人に比べるとかなり多いだけである。

 しかし、あの爺さんは耳が遠い。

 否、単に呆けた振りをしているだけなのかもしれない。

 所詮は赤の他人だから、俺は爺さんの詳細について把握もしていない訳だが、あいつはいつも、ちょうど俺が手ぶらになった絶妙のタイミングで現れては、西瓜一個分の、安い手間賃で俺の労力を使うのだ。

 爺さんの性格は、――まぁ、強いて言えば、常々自分の都合に良く考えるような思考の持ち主だ。

 周りの住民達の評価を聞くに、爺さんの外面はかなり良いらしいが、俺には時たま、奴の言葉の裏側に、嫌味ったらしい本音が隠れているような気がしてならない。

 いや、これは俺の感覚であって、決して、あの爺さんの悪口を吹聴したい訳ではない。

 確かに、あの爺さんは変わり者で恐いもの知らずというか、偏見を全く考えない所がある。細かくない部分も気にせずに、年中大口を開けて笑って済ませる節もあった。

 あの爺さんにも、まぁ、良いところはあるのだろう、きっと……多分な。

 爺さんの場合、息子共々立派で、息子らの嫁も気立てが良くて裕福だった。休みの日に都会からやって来る孫も畑を手伝ってやっているし、近隣住民への挨拶もしっかり行うし、愛想も良い。きちんと、愛のある教育が行き届いている証拠だろう。

 俺のところには、ガキの一人もいなかった。

 もし、俺にもガキがいたならば、お互いの子供同士、良い友人になれただろうにと、孫が来るたび爺さんは残念がっていた。俺の妻に似た子どもなら大歓迎だが、俺そっくりなガキだったら勘弁だ。