偶然にも『仮想空間エリス』の暴走か、マルクの『材料』として巻き込まれた少女――

 果たして、本当にそれだけなのだろうか。

 二人は、早々にそんな疑問を覚え始めてはいたが、確信は何も得られていない状況だった。そもそも、チームは第三者に深入りはしない。それは、まだ部隊が健在だった頃から何一つ変わっていない、スウェンを筆頭とするメンバーの身体に染みついたルールのはずだった。

 しばらくの間エルを共に行動させる事にしたのは、何かしら手がかりになると考えたのがきっかけだった。しかし、随分も前に必要最低限の情報は揃ってしまい、これ以上、彼女自身に囮をしてもらう必要はなくなっていた。

 それなのにスウェンは、吸血獣の一件の際には、エルの危険に対して反射的に「守れ」と部下に号令を出していた。

 ログとセイジも、隊長であるスウェンの指示よりも早く、身体が容赦なく反応してエルを守ろうとした。振り払う方法なんていくらでもあるはずなのに、スウェン達は、ホテルマンすら切り捨てる事が出来ないでいる。

 いつの間にか、チームは三人だけでなくなってしまっていた。エルとホテルマンが、そこにいる光景が馴染んでしまって、先程「別行動をしよう」と提案された時、そんな事をしてもう合えなくなったらどうするのだと、焦燥感と恐れを覚えた。

 自分が、どうするべきか、どうしたいのか。

 仲間の他は切り捨てて来た彼らにとって、自分の心の動きほど、一番難しいものはなかった。