エルはピキリと硬直していた。ログの肩から見降ろす下降は、更に高さが強調されてエルの眼前に迫って来る。自分の身体が自由にならない落下の恐怖が、足元から容赦なく込み上げた。

「ちょッ、マジ無理! 頼むから待ッ――」
「よしっ、皆一斉に飛び込め!」

 スウェンの号令と共に、チームが一団となって勢いよく外へと飛び出した。


 飛び出した世界は、一瞬の浮遊感と共に、少しひんやりと乾いた風を全身に感じさせた。


 しかし、そんな事を悠長に考える暇もなく、急速な落下が始まった。

 エルは、ログの肩にしがみついて甲高い悲鳴を上げ、セイジの背中にしがみついていたホテルマンが、空に大爆笑を木霊させた。三人の軍人はこの状況に慣れているのか、快活な表情で大空の落下を楽しむ。

「きゃぁぁあああああ!? 高いし怖いからもう降ろしてぇぇぇええ!」
「どうせすぐ着地なんだ。ちょっとは楽しめよ、クソガキ」
「ぶひゃっひゃひゃひゃ! 最っ高な風ですなぁ! わははははははははは!」
「あははは、エル君もまだまだ子供だねぇ。そうやって叫んでいると、まるで女の子の悲鳴みたいに聞こえるなぁ」
「空輸からの落下に比べれば、全然平気だ」
「お前ら俺の性別を絶対に忘れてるだろッ。というか、セイジさんッ、今そんな穏やかな笑顔で言われても、ちっとも慰めにならないんだけど!?」

 すぐに地上の木々の葉が迫り、エルは「びゃ!?」と悲鳴を呑んだ。

 セイジとスウェンが、衝撃に備えて体勢を整える傍らで、ログがホテルマンから投げ渡されたジャケットを受け取り、エルの身体にかぶせた。

「出来るだけ頭、下げとけ!」

 エルの抗議の声よりも早く、無造作にスーツのジャケットが視界を遮ってしまった。その直前にちらりと見えた、ログの少年じみた笑顔が憎たらしい。むしろ、エルはこの状況を一緒になって楽しんでいるホテルマンにも腹が立った。