一緒に行動する強い理由はないのだ。いずれ、そう遠くないうちに、彼らとは別れなければならない。

 ここまでで良い、とも思えるのだ。アリスの事は必ず助け出せるよう出来る限りの協力はするつもりだが、直感や私情や理屈でもない別れの予感が、エルの胸の奥をざわつかせていた。

 思い出せない約束が、出会った人達との別れを予感させている。

 いずれ別れるのであれば、ちょうど潮時だろうとも思えた。彼らには、彼らのやるべき事がある。エルは、そう決意を込めてスウェンを見つめ返した。

 軍人として任務を負った彼らと、一緒に行動するような、根拠の強い理由はエルにはないのだ。無事に現実世界に帰るにせよ、結局は『仮想空間エリス』まで、自力でもいいから辿り着いて、後で合流してもどうにかなる。

 エルとしては、スウェンならば、それを分かってくれるだろうと思っていた。

 これまでの旅の様子を振り返ると、ログとセイジが、スウェンの判断を拒否する事はないとも理解していた。だから、スウェンが了承さえすれば、ここでエルは、彼らとは別行動で『仮想空間エリス』に向かう事が出来る。

「――では、私は『小さなお客様』にお供致します」

 数秒の沈黙が降りた室内で、ふと、ホテルマンが陽気に手を上げてそう告げた。

「私も、ここから飛び降りて無事でいられる自信はありませんし?」

 ホテルマンは、嘘か本当か分からない顔で言うと、くるりとエルを見降ろして笑い掛けた。

 エルは、どこか懐かしいような不思議な既視感を覚え、ホテルマンをまじまじと見つめ返してしまった。気のせいか、彼は、何でも出来るはずだったような気がする……