「そう……。どれぐらいかかりそう?」

 少し思案し、エルが慎重に尋ねると、スウェンは弱々しく頭を振った。

「残念だけど、時間も約束出来ない。こちらの世界は時間の流れが速いから、最終エリアについたら脱出出来るとしか言えないな。通信手段は残してあるから、何か分かり次第教えてあげるけど、今、仮想空間は暴走状態だから何もかも未知数なんだよ」

 エルは、「なるほどね」とぼやいた。突然とはいえ、想定外なのはこちらも同じ事だった。まさか旅の途中で、こんな事件に巻き込まれるなど誰が想像出来るだろうか。

 元の世界に戻れる方法はあるらしいが、しばらくは先程のような危険が付きまとう可能性はあるだろう。その間は、自分の身を守らねばならない。

 幸いにも、生きている誰かを殺したり、傷つけたりする心配はない。この世界が全て作り物で、現実には存在しない頭の中だけの空間だと簡単に考えてしまえば、最悪な状況でないだろう。

 ここは現実世界ではなくて、仮想空間と呼ばれる夢の中だ。

 女の子を助ける事と、仮想空間を壊す事を目的に、彼らは先へと進んでいる――エルは、今一度、自分が置かれている状況を整理してみた。

 簡単に考えてしまうと、自分には任務といった義務はないので、お荷物にならない程度に付き合えばいいとも考えられる。エルは幼い頃より訓練を受けていた事もあり、護身には少しだけ自信もあった。

 思案していると、クロエが脇腹に頭を押し付けて来たので、エルは彼女の頭を撫でてやった。先程、一階で起こった戦闘の緊張感を、ほぼ忘れつつあると遅れて気付いた。

 現実感が薄いこの世界で、夢世界だと知らされた事で、自身の死という概念が少しばかりリアリティを欠いてしまっているように思えた。

 少なからず死の危険性はあるという事は確かだったが、エルは、ふと馬鹿な事を考えてしまった自分を嗤った。