エルは当初の緊迫感が長続きせず、もう驚きを通り越して感覚が麻痺しつつあった。巨人が海から上がって森へ突入すると、木々が蒸気を上げながら急速に焼け爛れていく様子も、何も考えずに眺めていると、まるでファンタジー映画を見ているようで現実感が曖昧になる。

 巨大なマグマの巨人の動作は鈍いが、あの大きさからすると、ここまで到達するのは予想以上に速い可能性もあるけれど。

「追いつかれたら、大変だなぁ……」
「大丈夫ですよ。なんとかなるでしょう、――恐らく」
「……にゃー」

 クロエが不安そうに鳴き、おずおずとボストンバッグの中に戻った。

 海とは反対方向である、東側の窓下を確認したスウェンが、呆けているエルとホテルマンを呼んだ。

「ここから脱出しよう。下にある木がクッションになってくれるはずだ」

 先程見た断崖絶壁に向かって、飛び降りろということだろうか。

 そう察して想像したエルは、空似放り出された一件の恐怖が思い起こされ、ざっと血の気が引いて勢いよく首を横に振った。表情の変化が浅いホテルマンも、どこか嫌そうな顔をしていた。