「全ての人間の中から、器となった『宿主』の一切が消え去ります。つまり、忘れ去られるのですよ。彼と共に過ごした幸福な想いの欠片さえ、人々の中には残りません。それが『夢の力』を持つ人間の代償でもあるのです」

 その人間は『いなかった事になる』のだと、彼は静かな声色で淡々と語った。
『宿主』としての力と素質を備え、『核』を引き継いで『夢』を育てる彼らを守るために、『夢守』がいる。

 とはいえ、全ての『宿主』が『核』を引き継ぐ器ではない、とホテルマンは独り言のように呟いた。

『夢人』には、二通りの存在がある。もう一方の稀な素質を持った『宿主』は、夢を育てる事はない。『核』が与えられる人間は、生まれながら死に抱かれていない人間が対象となる……

 そこで、ホテルマンが気付いたように言葉を切り、話題を切り替えるように「さて」とスウェンの方を向いて、胡散臭い営業スマイルを浮かべた。

「あの巨人は、我々を排除するよう半ば強制されておりますが、どうされますか?」
「逃げるに決まっている」

 ホテルマンの奇妙な話に気を取られ、引っ掛かりを覚えて逡巡していたスウェンは、出鼻をくじかれたような悔しさを顔に滲また。