立ち上がったホテルマンが、同じ高さから、ログとスウェンを見つめ返した。

「私は、確かにこの世界に存在するモノですが、貴方達の敵ではない事はお約束致します。けれど、今は全てをお話する事は出来ません」

 ホテルマンはそう言い切ると、右手を胸にあて、顔から作り笑いを消した。

「『彼女』もおっしゃっていたと思いますが、貴方達は早く、アリスという人間の娘を救出するべきです。でないと、本当に間に合わなくなってしまいますよ。人ではない私には、アリスという人間を、この世界から連れ出す事は、絶対に出来ないのですから」

 語尾に冷たい響きが混じった一瞬、その声が、全く別の男のもののように流暢に澄んだ。

 それを自覚したのか、ホテルマンが手で目元を覆い「すみません、少し冷静になりましょう」とほくそ笑んだ。唇だけが見えるさまは別の何者かのようにも見えて、エルに、以前のエリアで見た、あの仮面で仮装していたファントムを連想させた。