後に、オジサンに怒らせた野犬の対応について「口に手を突っ込めばいい」と教えられたが、あれは、エルには到底出来そうにもない芸当だった。実際、どこからか闘犬を借りて来て、三回ほどやり方を見せてもらったが……
エルは眼前に迫る、凶暴で大きな犬を前に、三回共に意識を失ったのだ。
ホテルマンのブラッシングのおかげか、クロエの毛並みはとても柔らかく、若き日を思わせる艶さえあった。
座敷部屋の窓辺に腰を下ろしていたエルは、クロエの頭を優しく撫で、知らず目元を和らげた。
「良かったね、クロエ。すごく機嫌も良さそうだ」
「にゃ」
クロエが一つ肯き、身体を伸ばして欠伸を一つした。エルは思わず「可愛いやつだなぁ」とクロエを抱き上げ、柔らかい頭に頬をすり寄せた。
その様子を遠くから窺っていたスウェンが、楽な姿勢のまま、ふと思い出したようにセイジに話しかけた。
「そういえば、あの映画の割引券、いつまで有効だっけ?」
「まだ行っていなかったのか?」
「色々と都合がつかなくてさ。大佐とか少佐の小言は煩いし、絡まれるとなかなか離して貰えないでしょう? せっかくポップコーンが無料で食べられるってのに、その矢先にマルクの件だもんなぁ……。エル君は、映画とか見る?」
唐突に話を振られ、エルはクロエを抱えたまま、返答に困って小首を傾げた。
エルは眼前に迫る、凶暴で大きな犬を前に、三回共に意識を失ったのだ。
ホテルマンのブラッシングのおかげか、クロエの毛並みはとても柔らかく、若き日を思わせる艶さえあった。
座敷部屋の窓辺に腰を下ろしていたエルは、クロエの頭を優しく撫で、知らず目元を和らげた。
「良かったね、クロエ。すごく機嫌も良さそうだ」
「にゃ」
クロエが一つ肯き、身体を伸ばして欠伸を一つした。エルは思わず「可愛いやつだなぁ」とクロエを抱き上げ、柔らかい頭に頬をすり寄せた。
その様子を遠くから窺っていたスウェンが、楽な姿勢のまま、ふと思い出したようにセイジに話しかけた。
「そういえば、あの映画の割引券、いつまで有効だっけ?」
「まだ行っていなかったのか?」
「色々と都合がつかなくてさ。大佐とか少佐の小言は煩いし、絡まれるとなかなか離して貰えないでしょう? せっかくポップコーンが無料で食べられるってのに、その矢先にマルクの件だもんなぁ……。エル君は、映画とか見る?」
唐突に話を振られ、エルはクロエを抱えたまま、返答に困って小首を傾げた。