「建物の全貌が気になるところだけれど、とにかく休める場所を探そうか」

 スウェンは、近くにいた浴衣の中年女性に道を尋ねた。女性は「初めての訪問かい?」と訊き、それなら上の階が空いているので何処でも好きな場所を使えばいいさ、と言った。今の時期は商人の出店が主に活気づいているため、上の階の宿泊者は、ほとんど出払っているらしい。

 中年女性は手短に説明すると、踵を返して近くの店部屋に踏み込み、店主と客のやりとりも気にせず、壁に設置された梯子を登って行ってしまった。

 スウェンは、別の女中らしき人間を掴まえると、上の部屋までの行き方がわからないので教えて欲しいと頼んだ。手に金魚の入った木の桶を持っていたその女中は、妙な顔をした後、近くの屋台にいた別の女に声を掛け、その店の椅子に腰かけていた、五歳ほどの女児を連れて来た。

「この子が案内してくれるから、ついてお行き」

 女中は金魚の様子を確認すると、忙しそうに外へと行ってしまった。

 紹介された女児は、甚平らしき赤い着物を巻き付け、髪を頭の上で一つに結んでいた。彼女は言葉が話せないのか、スウェン達についてくるようにというジェスチャーすると、慣れたように土足で煙管屋に踏み込み、奥の梯子を登り始めた。

 二階、三階の部屋を長い梯子で通過した後、女児は、坊主頭の少年二人がいる部屋に踏み入った。彼らは粥の飯を食っているところだったので、まるで人様の家内に土足で踏み込んだような罪悪感を覚えた。

 エル達が申し訳なさそうに座敷を通過する様子を、部屋にいた少年達が、珍妙な生物を見る目で見送った。