ああ、俺はオジサンのようにはなれないのかと、あの時エルは、抱きしめられた力強い腕に触れて察してしまった。

 どんなに鍛えても、どんなに努力しても、オジサンの本当の息子になってはあげられないのだ。しかし、どんなに待っても女性としての二次性徴は訪れず、もしかしたら、強い男になれるかもしれないと無知なエルが期待を滲ませるたび、オジサンは、いつも笑って肯定してくれた。

 セイジに声を掛けられ、エルは我に返った。思い耽っている間に、頂上の建物に辿り着いてしまっていた。

          ◆◆◆

 階段の天辺にある大きな建物の前には、木材質の鳥居のような門があった。そこをくぐるように通り、建物に入ると、横一本の細い砂利の通路に直面した。

 丘の上に直接建てられているのか、一階には床が敷かれていなかった。しかし、入ってすぐの正面にあったのは壁ではなく、遥か頭上まで、大きさの不揃いの部屋が室内の様子を晒け出し詰められていた。

 建物に詰められた部屋数は、百以上はありそうだった。絨毯屋、鳥小屋、バイプの販売所、客人用の宿泊部屋など多種多様にあり、奥には別の部屋まで設けられているようだ。様々な木の梯子を使って、人々が方々の部屋を自由に行き来していめ。

 砂利の一本道となっている一階から三階辺りまでは、どうやら全て販売メインの小部屋が続いているようだった。

 各部屋を注視していると、二階、三階の部屋の奥に、更に通路や梯子も見えた。正確な建物の奥行が分からず、部屋が敷き詰め重ね合わされた異世界のようにも思える。

 近くにある商人の部屋には、泣きじゃくる赤子と、疲れ切った若い嫁が居座っていた。部屋の奥にある壁に、梯子が掛けられた穴が空いており、向こう側にも別の通路が設けられているのか、行き交う通行人の姿が見えた。

「ちぐはぐな場所だね」

 エルが感想を述べると、スウェンが困ったように頭をかいた。