ログが髪の気の水分を雑に拭い取ったところで、エル達は、スウェンを筆頭に階段の上の建物を目指した。

 道中には食べ物に関わる屋台が多く並んでおり、途中、スウェンは「一旦休憩が出来そうだし、買っておこうか」と食糧をいくつか購入した。

 エルは、スウェンとログの後ろで、セイジやホテルマンと焼き鳥をつまみ食いした。味が付いた食べ物はクロエに良くないので、特別に一つだけ、味付けのされていない焼かれた鶏肉を購入し、分け与えた。

 階段はそれほど長い道のりではなかったが、足場の高さが不安定で、足元を確認して進む必要があった。

 エルは視線を上げた拍子に、前を歩くログの褐色の襟首に、薄らと古い傷跡が残っている事に気付いた。そういえば、彼は左腕にも手術痕が残っていたように思う。ログが力を発動する際、模様のような物が浮かび上がっていた様子を、エルはちらりと思い起こした。

 彼らは、特殊な部隊に所属していたというので、スウェンが科学者が嫌いである事と、ログが他者に身体を触られたくない理由も、そこに関係しているのだろう。

 エルは考えつつ、前を歩くログの大きな背中を眺めた。

 逞しい肩を少し丸め、品もなく歩く彼の大きな背中は、どこかオジサンに似ていて、エルは懐かしく思い出した。いつか強くなったら、自分もオジサンのように逞しくなれると、本当につい最近まで、エルは信じて疑わなかった事を覚えている。

 いつか、心配されない逞しい男になるのが夢だった。

 オジサンは、亡くなった奥さんとの間に息子を持つ事が夢だったそうだから、沢山恩返しがしたかったのだ。けれど、エルが初めて野生の猪と対峙した時、オジサンは慌てて猪を追い払うと、佇むエルを抱きしめて、こう言ったのだ。

――お前は女の子なのだから、俺の目が届かないところで無茶はしないと約束してくれ。いいか、恐い時はすぐに俺を呼ぶんだぞ……