「……くどくなっつってた親切なおっさんの話、聞いてなかったんだ?」
「小さなお客様、足がみぞおちに喰い込んで痛いです」

 痛みで笑顔を曇らせながら、ホテルマンがどうにかそう答えた。

 エルは、更に足に力を入れて話を続けた。

「ここは遊郭じゃないから、女性へのお触りとか駄目なんだって。女の人に手を出したら酷い目に遭うらしいから、絶対に禁止。――理解出来た?」
「はい、分かりましたッ、超理解出来ました! いやぁ買い手がなかなか付かないもので、私も少しばかり調子に乗ってしまったと言いますか……えぇ、大変申し訳ございませんでした!」

 半ば上体を起こしたホテルマンが、途端に嘘臭い顔で力強く宣言した。

 本心で理解して、きちんと反省しているか分からないが、エルは、ひとまず危うい事態を回避出来た事を思って吐息をこぼした。彼女の後を追って来たクロエが、雰囲気をもろともせずにエルのボストンバッグに身を滑り込ませて「ニャン」と上機嫌な声で鳴いた。