「簡単に言ってしまえば、機械で意図的に『夢』を見せた人間が死んでしまうんだ。システムや機器に問題はなかったのか、改めて徹底して急ぎ調べられたけど、そんな要因は見当たらなかった。事が緊急性を要すると判断されたのは、その間に、数名の調査員が行方不明になり、数日も経たないうちに基地内で死体となって発見された事もある」

 つまり、システムだけの問題ではなく、それを引き起こしている内部犯、もしくは外部犯の可能性も出て来たのだ。

「ただちに研究部署の閉鎖が決まって、謎の死については、原因が分からないままピタリと止まった。――それから数年が経ったつい最近、研究に関わっていた科学者のマルクという男が、実験資料と一部のデータを持って姿をくらました」

 スウェンの声が、真剣見を帯びてやや低くなった。

 ああ、何だか聞いてはいけない重い感じになってきたぞ、とエルは嫌な予感を覚えた。思わず肩から斜めにさげているベルトを掴むと、ボストンバッグの口から顔を出しているクロエが、エルを励ますように頭を摺り寄せた。