断崖絶壁のような細い階段を上がった先は、山肌の見える岩場だった。高所となっているため、西には海が広がっており、傾いた太陽の光が、海に眩い光りの道を浮かべて輝いているのが見えた。

 大きな岩肌の隙間から生えている草に気をつけながら、五人は、山を登るように先へと進んだ。クロエも、ボストンバッグの外へと出て、自身の足で傾斜となっている岩山を登った。

 クロエの身体は、しなるように身軽で、どことなく活き活きとしていた。つい先程、吸血獣の一件でボストンバッグの中でもみくちゃにされた事が、彼女の機嫌を損ねてしまっていたのだが、彼女の尻尾の逆立ちも今はすっかり収まっている。

「いやはや、猫ちゃん様は動作も優雅ですなぁ」
「うん。でも、すっかりストレスが溜まっちゃってたんだろうなぁ……」

 エルは、クロエの存在について、いつも意識しているつもりだった。先程の吸血獣の一件については緊急事態であり、思った以上に身体が動いてしまった事を反省している。

 不思議な事に、この世界へ来てから、エルとクロエは、お互い身体の調子が良過ぎるのだ。外の世界では少し歩くのも億劫だったクロエも、今はご機嫌な顔で岩場を駆けていた。

 この世界に夕暮れはあるのだろうか。

 エルは、ふと、そんな事を考えてしまった。気付くと傾いた日差しに対し、空は薄らと橙色を帯び始めている。照った身体に、涼しい潮風が穏やかに吹き抜けるたび、葉々の匂いが鼻腔に広がった。

 しばらく進むと、賑やかな物音が耳に入り始めた。

 岩場を抜けると、一つの村に出た。木材を重ね合わせた長い階段が山に沿って伸びており、その周囲には、布やトタンで造られた小さな建物が密集していた。山中の村には至る所に提灯が灯っており、さながらお祭りのような賑やかさだった。

「中国の古風な村を思い出すね」
「そうか? まぁ、確かに集落のような感じはするな」

 スウェンが言い、その隣でログがそう答えた。