ホテルマンが途端に、ピタリと泣き声を止めて、妙なものを見るような顔をエルへと向けた。

 二人の間に、柔らかい湿った風が吹き抜けた。

 上の方から、スウェンとセイジが「大丈夫か」と声を掛けても、ホテルマンはしはらく反応を返さなかった。長い沈黙を置いた後、ログが「早くしろ」と急かす言葉を合図に、ようやく手を伸ばし始めた。

 ホテルマンは、何度か躊躇するように手を止めたが、恐る恐るといった様子で、まるで壊れ物を扱うように、ゆっくりとエルの手に触れて握った。


「――はい」


 どちらとも付かない声色で、ホテルマンがそう答えた。

 エルは、彼の手をしっかりと握り返した。彼の手は作り物のようにキレイで、ひんやりと冷たかった。男一人を持ち上げるには厳しい状況であるが、やってみなければ分からないだろう、とエルは自分を奮い立たせた。

 上で痺れを切らしたログが、エルの腕をむんずと掴んだ。

 彼は「さっさと来い」と一声掛けると、ホテルマンごと、エルを難なく上へと引っ張り上げてしまった。