「さあ、お客様たち、こんな所で悠長に話しなどしていられませんよ。逃げれば勝ち、というやつです!」

 ホテルマンは片方の目を閉じる仕草を見せたが、作り物じみた顔では、乙女的ウィンクの再現は厳しかった。

 スウェンが「うげ」と珍しく声を上げてドン引きし、セイジが「それ、やらない方がいい……」と今にも吐きそうな様子で口許を押さえ、ログがあからさまに顔を顰めて「見直して損したぜ」と盛大な舌打ちを一つした。

          ※※※

 五人という少数部隊で、かなりの吸血獣達を再起不能に出来たようだった。

 辺りには、吸血獣達の死体が多く転がっていた。吸血獣の殲滅が目的ではないので、襲いかかって来ない分に関しては深追いする必要もない。

「まぁ、確かに、彼のいう通りだね」

 ホテルマンの言葉を思い返したスウェンが、諦めたような息を吐いてロケットランチャーを担いだ。

「無駄な体力の消耗は、出来るだけ避けよう」

 いつ吸血獣達がまた襲って来るとも限らないので、エル達は駆け足で村を横断した。

 村にある塔の奥にあったのは、断崖絶壁のような高い岩肌だった。そこには、岩で重ね作られただけの幅のかなり狭い階段が上まで続いていたが、傾斜が高く、階段を上がるというよりは、山肌の岩を登るような勇気と技術を強いられた。

 ほぼ両手両足で登るしかない階段の頂上に、先にスウェン、セイジ、ログが辿り着いた。ログは丘の上に辿り着くや否や、膝を折って岩肌の階段へ目を戻した。

 そこには、階段をのろのろと慎重に上がって来るエルの姿があった。ログは、彼女に手を伸ばした。

「ほれ、もうすぐだ、クソガキ」
「うるさい……別に、ちゃんと登れるし……」

 エルは、どうにかそう言い返したが、内心の余裕は全くなかった。階段を両手で掴みながら、震える身体を心の中で叱咤し続けている。