二人の接近戦の様子を見ていたスウェンが、自身の呼吸を整えながら前髪をかき上げた。吸血獣達は、仲間の無残な死に様を見て恐怖したのか、いつの間にか辺りから姿を消してしまっていた。

「……こんな無茶苦茶な傭兵、うちのチームにもいなかったぞ。二人とも、すごく強いな」

 呆気につられつつも、スウェンは正直な感想を口にした。とてもじゃないが、あの戦闘ぶりを見た後では接近戦で勝てる自信がなくなる。恐ろしいほど磨かれた身体能力と、天性の戦闘センスがなければ無理だ。

 吸血獣がいなくなった事に遅れて気付き、エルは戦闘体制の緊張を解いた。コンバットナイフをしまうと、途端に鋭い闘気を消失させて、可愛らしい表情でコートについた粉塵を手で払い「そうかなぁ」と自信なく答える。

 すると、彼女の隣で襟元を整えていたホテルマンが、襟元を整えながら「むふふふ」と妙な鼻息を上げた。

「『強い』そうですよ、小さなお客様。褒められましたね。いやはや、なかなかのナイフ捌きでした」
「そっちもナイフ投げてたじゃん」
「ふははははっ、いつかお金に変えてやろうと服に忍び込ませていた甲斐がありましたね! 結構なお値段ですので、ちょっと勿体ない気はしますが」

 ああ、残念でなりません、とホテルマンが相変わらず胡散臭い顔で吐息をこぼした。先程まで戦っていた、冷酷な戦士の様が思い出せないほど普段通りだった。

 銀のナイフも盗品なのか……クビになっても仕方ないのでは?

 エルは、突っ込む気さえ起らず、悩ましげに首を捻った。とはいえ、彼とコンビを組んで戦うのはとてもやり易く、本当に似たタイプの接近戦闘員なのだろうなとも思えた。戦いの呼吸が同じなので、エルも非常に動きやすかったのだ。