「『エリス』てキーワードがあるけど、それって、システムの名前ってだけじゃないの?」
「モデルがいる」

 これまでだんまりを決めていた仏頂面の男、ぶっきらぼうにそう答えた。

 詳細は誰も言わなかったが、エルは「そう」と言うだけに留めた。これも、軍法機密に値する詳細とかいうやつで、自分には必要のない情報なのだろうと思ったからだ。

 スウェンが肩越しにエルを見て、取り繕うように笑って先を続けた。

「調べた結果、原因は不明だが【仮想空間エリス】には、二つの特徴的な活動波長が起こってしまっている事が判明した。例えば、こちら側から信号を送って反映した正常反応が青い波長だとすると、時々、こちら側の進行予定とは全く別に、ノイズのように現れる赤い波長があるんだ」

 手振りを交えながら、スウェンはエルに伝わるよう説明した。

「赤い波長は、仮想空間が広がる時に現れていて、それが前触れもなく一瞬だけ空間内を動く事がある。亡くなった三人の兵士は、『深追いし過ぎた為に誰かに意図的に殺害された』可能性もあるみたいだけど――まぁ現状の問題はそこではなくて、シミュレーション・システムが人間を殺せてしまう、というのが大問題でね」
「夢の中にいる状態で、人間が死んでしまう事、でいいんだよね……?」

 エルが、頭の中の整理を口にすると、スウェンが「そうだよ」と肯き返した。