エルの隣には、距離を置いてホテルマンがいた。彼はエルの活躍に「相変わらず、素晴らしい動きですなぁ」と張り付いた顔で褒め、後方から襲いかかる二匹の吸血獣の存在に気付くと、手刀で一撃し、ついでとばかりに、セイジの後頭部に飛びかかった一匹に素早く銀のナイフを放った。

 ホテルの会食で並べられている銀のナイフは、セイジが奇襲に気付いた瞬間には、吸血獣の頭に突き刺さっていた。本来銀のナイフは肉断ち用ではないのだが、吸血獣の頑丈な頭蓋骨を突き破るほどの速さだった。

「やるじゃねぇか、ホテル野郎」

 ログが思わずニヤリとすると、ホテルマンは「それほどの事でもございません」と読めない表情でニッコリと応えた。

 こちらの騒ぎに誘われたかのように、前方方向から百ときかない吸血獣が次々に湧き出して来た。

 そのタイミングを計ったように、先頭にいるログと立ち位置を入れ替えたスウェンが、ロケットランチャーで吸血獣を叩き払い、前方方向に群がった吸血獣に狙いを定めてすかさずロケットランチャーを撃った。

 放たれたロケットランチャーの発射音に、空気が振動した。

 ロケットランチャーの弾は、飛び出した勢いで近くの吸血獣たちを薙ぎ払い、着弾点で爆発すると、粉塵を巻き上げて爆炎と爆風で吸血獣達を一掃した。

 後方からその様子を見ていた吸血獣は、武器を持った人間はすぐに喰えないだろうと判断したのか、武器を持たない獲物に狙いを定め、一斉に地面から飛び上がると、三人の男の後方にいるホテルマンとエルに襲いかかった。

 スウェンとログ、セイジが気付いて振り返った時には、既に数十の吸血獣達が、エルとホテルマンの眼前に迫り、鋭利な牙を剥き出していた。