小休憩を挟んだエル達は、軽くなった足で木々の生い茂る深い道を先へと進んだ。

 水を含んだ土は、次第に乾燥し始めた。ホテルマンが調子のずれた鼻唄を行うと、ログが苛立ってそれを注意した。視界が悪い場所だからこそ、小さな物音にも敏感になる必要があった。

 最後となるこのセキュリティー・エリアが広範囲であり、多くの場所を抱えている事をスウェンは危惧していた。ホテルマンの言っていた「荒れ放題の土地」が複数のセキュリティー反応だとすると、この仮想空間は完成度が高いといえる。

 ここを超えれば、ようやく目的の『仮想空間エリス』へと辿りつけるので、事は慎重に進めなければないという意識も高まっていた。


 道はしだいに細く険しくなり、足元に大粒の石が増え始めた。

 地面の乾き具合に対して空気は湿気をまとい、風はやや冷気をまとった。木々はやがて高さを変化させ、幹も葉も色濃くなり、手入れされていない雑草が道の左右に生い茂る。

 消炎の匂いに先に気付いたのは、先頭を進んだログだった。

 生き物が焼ける匂いは、すぐ他のメンバーの鼻先を掠めるようになった。その匂いは次第に濃厚になり、スウェンが顔を歪めて鼻に手をあて、こう呟いた。

「……戦場の匂いだ」

 エルは、蝿の飛ぶ気配に気付いて、茂みの方に目をやったところで息を呑んだ。そこには、生物だったものの肉塊が無造作に転がっていた。

 それは乾き切った黒い血の跡を残した、雑草を握りしめた人間の腕だった。本物の死体を見た事はなかったから、エルは一瞬だけ、呼吸の仕方を忘れてしまった。