陽がやや傾いた頃、道の途中に湖がある場所で、一同は休憩を取った。湖は一切の波を立てず透き通っており、苔の生えた岩や水中の石もキレイに見えた。水草の上や下に、生物の影は見えなかった。

 エルはホテルマンに促され、疲れた足を湖に入れた。その冷たさには驚いたが、歩き疲れた足先から、疲労が抜けてゆくようで心地良かった。クロエも湖が気に入ったのか、エルの隣に座り、手を伸ばして水面をすくう仕草をした。

 それぞれ、湖の水でタオルを濡らして身体の熱を拭った。ホテルマンが、クロエの身体を丹念に拭き上げると、彼女は少し疲れてしまったのか、水を飲んですぐにボストンバッグの上で丸くなった。

 スウェンは、ホテルマンから譲り受けた地図を手に、木々の間に開けた空を眺めて、現在の位置を推測した。

 このまま進むと、小さな村に抜ける予定らしい。地図によると、村の先には丘が続いており、山の傾斜に構えられた別の村がある――とスウェンは一同に説明した。それが、手っ取り早く北東へ進める最短ルートだった。

「そうですね。もう少し高い場所へ行けば、不定期に海側に現れるという巨人を見られるかもしれません」

 エルの隣に腰を下ろし、同じように湖に足を浸していたホテルマンが、唐突にそう言った。

「彼らの身体はマグマで出来ており、その姿は非常に醜いそうですよ。どうです、見たいでしょう?」
「う~ん、どうだろう……」

 唐突に質問されたエルは、思わず視線をそらせた。

 それが恐怖映画の題材を集めたような悪魔の姿をしているというのなら、現れて欲しくないとも思う。攻略する術がない敵というのが、エルには一番怖いのだ。