ログが「ゲッ」と声を上げ、ホテルマンを指差した。

「なんでまたお前がいるんだよ!」
「おや、私がいてはいけないのですか?」

 ホテルマンが、胡散臭い顔に、取ってつけたような眉を僅かに潜めて見せた。

 ホテルマンは、ログの指先から少し立ち位置をずらすと、わざとらしく大きく息を吐き、演技かかかった悲劇のヒロインのような台詞を口にした。

「ああ、人の顔を見るなり酷い扱いですッ。世の中はなんて無情なのでしょう! 私、悲し過ぎて、そこらの恋人達の仲を片っ端から引き裂いてしまいたい気分ですよ!」
「自分の胸が張り裂ける、とかではなく……?」

 思わず、条件反射で呟いてしまったエルの口を、スウェンが素早く塞いで「駄目だよ、エル君。関わったらとばっちりをくらう事は目に見えているんだから」と、彼女の背後に隠れつつそう耳打ちした。

「……その、何故貴方がここにいるんだ?」

 セイジが、スウェンの様子を横目に確認しつつ、躊躇いがちに訊いた。

 すると、ホテルマンは「就職活動ですよ!」と陽気に答え、「オホホホホホ」と奇妙な笑い声を上げた。