「どうやら『夢の中』――仮想空間内で受けた傷が、現実世界にそのまま反映されたらしい」

 すると、先頭を進みながらスウェンが肯き、話しを引き継いだ。

「死亡した男は、【仮想空間エリス】にある演習施設の外を歩いて事故に遭ったようだ、と推測された。エリス・プログラムを調べてみても、彼の行動記録が壊れていたらしい。その不審な事故死は三件も続いて、三人の兵士の死亡原因は、『エリス』の意思による殺人の可能性ではないかとも憶測された」

 シミュレーション・システム『エリス』が人を殺す、という発想は一部の科学者の憶測であるが、母体である『エリス・プログラム』は人工知能型であるので、そんな話が出たのだと、スウェンは「真意のほどは定かではないけれど」と語った。

 幅の長い非常階段は、それぞれ三十段で一区切りされていて、どこまでも続いているような錯覚さえ覚えるものだった。体格差もあって、エルには体力的にきつかった。