足場のない大空に放り出されている事実に、半ばパニックになりかけたところで、エルは、同じように大空へと放り出された男達と目が合った。スウェンの爽やかな顔も見事に引き攣っており、セイジは半ば放心状態だ。

 エルは、ボストンバックに潜り込むクロエに気付き、慌ててバッグのチャックを締めて胸に抱いた。スウェンが、咄嗟に近くにいたセイジの手を掴んだ。

 ログの顔が険悪さを増した時、唐突に四人の落下が始まった。

「あの野郎、また空かよ! わざとじゃねぇのか!」
「そ、そそそんな事言っている場合じゃないでしょ! どうすんのさ!?」

 耳元を切る激しい風の音が、お互いの声をかき消してよく聞こえない。セイジがエルに向かって何か叫んだが、距離が離れている為に聞き取る事が出来なかった。

 眼下を見降ろしたスウェンが、一同に向かって一際大きな声で叫んだ。

「落ち着くんだッ、そこまでの標高はない! 下のプールに身体が入るよう調整するんだ! 恐らく十三秒後には着水するぞ!」

 エルは、恐怖に押し潰されそうになりながら、眼下の様子を確認した。

 地上には、扇形の敷地をしたリゾートホテルらしき建築物が佇んでおり、建物の湾曲した内側を彩るように、美しい造りをした巨大なプールが設置されているのが見えた。

 ああ、もう駄目かもしれない。

 エルはそう思いながら視線を水平に戻し、――一瞬、呼吸すら忘れて目の前に広がる世界の光景に見入ってしまった。

 神々しい山々と川が連なる広大な大地と、緑の山中に聳え立つ荘厳な礼拝堂の美しさに目を奪われた。ほとんどの土地には、生命力溢れる高い木々が生い茂り、美しいばかりの異世界が、そこには広がっていたのである。