不自然に砂浜に立つ緑の扉は、後ろに回ると、ただの壊れた扉に見えた。鼠の顔を象ったドアノブが一つあるが、建築材料の一つである板きれ一枚の扉が、どのような仕組みで砂浜に直立しているのか不思議でならない。

 半信半疑、渋りつつスウェンが扉のドアノブを引いてみると、扉の枠の向こうには、光りの洪水が渦を成して待ち構えていた。

 スウェンが持っていた小型探査機も、確かにここが、仮想空間同士の接合点である事を示していた。

 扉の幅は、大人二人分ほどだった。少年が作ったらしいその出口を、スウェンは、何故だか気乗りしない顔でしばらく眺めていた。

「……僕が推測するに、嫌な予感しかしないんだよねぇ。出来るだけ同時に突入しよう」

 しばらく逡巡したものの、スウェンが諦めたようにそう告げた。

 まずスウェンとログが扉へと踏み込み、その直後に、エルとセイジが光りの渦へと足を踏み入れた。


 途端に視界いっぱいに緑や黄色、赤やブルーといった光りが眩しく瞬いた。光りの洪水は強烈な風を伴って、前へと進める足を絡め取ろうとする。あまりの眩さに酔いそうになりながら、エルは吹き飛ばされそうになる身体を両足で支え、一歩一歩確実に先へと進んだ。


 数分も掛からずに、前触れもなく視界が開けた。

 同時に、覚えのある浮遊感に襲われ、エルの思考は停止した。

 大気が薄く、水で溶かしたような青い空が眼前には広がっていた。伸ばし削がれたような雲が大空に描かれている。束の間、エルは全く関係のない感慨深さを覚えた。とても広大で美しい空だ……

 けれど、その数秒の浮遊感の間に、今自分が置かれている状況を正確に把握し、すぐにエルの表情は強張った。