ああ、そうだったのか、と少年は呟いた。

 どうして、すぐにその可能性について思い至らなかったのだろう。一介の『夢人』には近づく事も許されない夢世界の根源の『理』が、既に動き出していたのだろう。唯一あのメンバーの中で、限りなく特別大きな『宿主』の資格を持つエルには、すでにその存在がいたのだ。
 

「宿主がいなくなった為に、彼女に惹かれるのは仕方ありませんが――駄目ですよ。アレは、私のものなのですから」


 少年が『夢人』として自覚を促された時と、同じ声が背後から降り注いだ。

 首筋がひやりとして、少年は、背後に広がる闇をゆっくりと振り返った。

 同じ『夢人』ではあっても、生物側から生まれない彼らには『顔』がない。出会えず、触れあえず、お互いの世界に干渉する事が出来ないから、彼らは生物の夢世界にさえ招かれない。

 つまり生物の『夢』を形成するにあたって、一番大切な『心』を写し取る事が出来ないから、彼らは決して『夢守』にはなれないのだ。

「――仮面の」

 呟く少年の声は、「残った力を私に頂けませんか」という声と同時に途切れ、少年の視界は暗黒へと転じた。