少年は、エルが口を開く前に踵を返すと、ビーチの向こう側を指差して大人達に聞こえるように、大きな声でこう言った。

「貴方達が言っていた『出口』だけど、不自然に掴まれているような感じがする場所をみつけておきました。分かりやすいように、緑のドアを付けて向こう側に移動させているので、ここを真っ直ぐ進んで、あの大きな岩を飛び越えて行って下さい」

 風は、既に吹いていなかった。人々の賑わいも、波の音もなくなった世界で、鈴音のように少年の身体から一つ、また一つと音が零れ落ちた。

 押し寄せる波の動きは単調で、音のない映像を見ているようだった。波の動きも次第に鈍くなり、ごきちなく止まり始めていた。


「さよなら。俺の『主』を解放してくれて、ありがとう。貴方達の目的が達成出来ますように」


 別れを告げ、少年は一同を見送った。彼らが歩き出しても、少年は名残惜しそうにエルの背中を見つめていた。

 視線に気付いてエルが振り返ると、少年は、目が合った拍子に小首を傾げてみせた。少年が小さく手を振って来たので、エルも小さく手を振り返した。ボストンバッグから顔を出したクロエが、いつまでも少年の見送りを見守った。

         ※※※

 四人の人間の姿が岩場の向こうへ消えるまで、少年は動かなかった。

 あのメンバーの中で、一際華奢なエルの、ぴんと伸びた背筋から目が離せないでいた。少年はエルの姿が完全に見えなくなるまで、ずっと考えていた。

 どうして俺は、こんなにもの子の事が気になるのだろう?

 今更ではあるが、少年はエルの歳について「自分の、今の姿と同じくらいの齢だろうか」と推測を立てた。

 堂々と歩く黒いコートの立ち姿が、少年の目には新鮮に映った。なんて強い子共なのだろうと、憧れに似た胸の疼きを覚えていた。あの手に触れた時から、何故か強く惹かれている自分がいる。