詳細は所々大きく要約されてはいたが、エルはあえて尋ねず、深くも聞かなかった。詳細は軍の極秘事項なので、知る事によって危険が発生する可能性があるらしいとは前置きされていたからだ。

 エルは一般人である。深く踏み込むつもりは当然なかった。

 スウェンは一見すると軽いが、優秀な軍人そうな知的さが窺えたので、エルは彼に任せていた。説明に必要だと判断した事項だけを、簡潔にまとめているようにも感じたので、長話のような前置きも、きっとこれから話す事に必要なのだろうと推測して、話しは折らなかった。

「いいかい、少年。当時の研究データでは、基本的に『夢』である仮想空間内での肉体的損傷は、現実世界には反映されないと安全性が実証されていたんだ。被験者に残るのは、仮想空間で受けた経験と、傷を負った時の傷みといった精神的な感情の記憶がリアルに残る。けれど実際、死者が出てしまったんだよ。検証の結果、【仮想空間エリス】でバグが生じたと結論された」
「バグって……たったそれだけの事で、その人は死んだの?」

 人の死に反応し、エルが思わず尋ねてしまうと、日本人風の男が「私も詳しくは知らないが」と前置きしてこう補足した。