ふと考えてしまったエルの掌に、クロエが頭を押しつけ、喉を鳴らして「ニャーン」といった。どうやら、励ましてくれているらしい。

 エルは思わず「ふふ」と忍び笑いをし、クロエを抱きしめた。

「大丈夫だよ、クロエ。ありがとう。昔は若かったなぁって、思い出すと可笑しくてさ。俺もお前も、ポタロウのペースにすっかり巻き込まれていた時代があったもんね。ポタロウは、おばあさんになっても、落ち着きのない子だったなぁ」

 エルは、クロエを砂浜へ降ろした。ふっとクロエが海の向こうに目をやったので、立ち上がり様に、つられて同じ方を眺めた。

 青い海が、きらきらと輝いて綺麗だった。遥か彼方の地平線の上を、鰯雲の群れが泳いでいる。

「――ああ、本当に懐かしいなぁ」

 思わず呟いてしまった。広がる広大な空の青さが、知らず目に沁みた。

 エルは山育ちなので、本物の海に触れた事はないが、地平線を飲み込む大きな空の青は今でも鮮明に覚えていた。

 オジサンの家があった山の上から眺めた空は、幼いエルの目では、言葉では言い表せないほど広大に映り、下から見上げるエル達がちっぽけに思えるほどだった。