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 現実世界で奮闘するハイソン達が、とんだ目に遭う十数分ほど前、エル達は、大きな岩がいくつか埋まっただけの舗装されていないビーチで、ようやく一段落したところだった。

 ログが、少年に対して大人の礼儀とやらを身をもって教える、といういざこざはあったものの、そこはスウェンが場を取り持って落ち着かせた。

 小さな騒ぎが落ち着いた後で、通信方法についてスウェンは頭を悩ませ始めたが、それは少年の一言ですんなりと解決へ至った。

「おじさんが持っているそのマイクを、外に繋げればいいの? それなら簡単に出来るよ」

 少年は嘘をつかなかった。彼が、スウェンが持っていた無線マイクを手に取ると、すぐに人の声が入り始めたのだ。マイクからスウェンが応答すると、すぐに『こちらはトーマス……』と問題なく通信音が入った。

 人型は便利だなぁと、スウェンは半ば呆けた声で感想を口にした。

 少年はスウェンの疑問に対して、自分が物質世界に行く事が出来ないから、時々『主』の身体を通して、外の世界の映像を眺めて音を拾うのだと語った。それと同じ原理で特別な事ではないとも説明した。

 勿論、エル達にはあまり理解は出来なかった。少年の持つ常識は、現実世界に通じない部分が多々あるようだ。支柱をその身に埋め込んでいるというよりも、『夢人』という存在が、この世界の中で彼の立場をどこまでも自由にしているらしいと思えた。

 エルは、クロエが砂地を楽しみ歩く姿を横目に、砂浜へと押し寄せる波を眺めながら、スウェン達が、少年を間に挟んで外部との交信を終えるのを待った。

 本音を言うと、本当は海に飛び込んでみたかったのだが、すぐに「駄目だよなぁ」と諦めた。次の世界では何が待っているか分からないので、体力は温存していた方がいいだろう、と考え直す。