バーチャルを駆使した、全く新しいシミュレーション・システムの完成だった。眠りに入る事で、被験者は夢と同じ原理で起こされた『仮想空間』にて、疑似的な世界を体験し経験も得られる事が確認された。

 眠りの中で見る『夢』でありながら、プログラムされた仮想空間を体感する事が出来るシミュレーション・システムの名は『エリス』といった。

 システムには、基盤の母体となる『エリス・プログラム』が組み込まれており、被験者をより的確に仮想空間へと導く為に必要な、主要プログラムとして存在していた。その事から、シュミュレーション内は【仮想空間エリス】と命名された。

 精神的な刺激が強いため、仮想空間内で体験した事は、全て経験として脳の数値に刻み付けられる特徴があった。更に研究を重ねれば夢の解明と、訓練だけではなく直接的な洗脳も可能にする可能性を大きく秘めている、と軍は期待もしていた。

 仮想空間は、プログラムの強化とシステム全体の成長に併せて、設計された空間の拡大も確認されていた。仮想空間の物質としてエリスに認識し、機器や武器を投影し送れるよう実現させるまで、時間はかからなかった。


「けれど、それは死者が出るまでの話だ」


 ホテルの最上階へと続く階段を、ゆっくりと上りながら、先に自己紹介を行った金髪の男、――スウェンがそこでようやく言葉を切った。

 エルはあれから、クロエの入ったボストンバックをいつものように肩から斜めに下げ、三人の男達の後について歩きながら、スウェンの長い話しを聞いていた。