クロシマが、大きな舌打ちをした。

「クソッ、あいつら再生するのかよ! こちとら戦闘には不向きな不健康組みだってのにッ」

 思えば、短足で運動音痴で胃腸の弱いデブと、食事管理のまるでなっていないサボリ魔な不眠症の組み合わせだったな……と、ハイソンはどうでも良い事を考えてしまった。

 通い慣れた回廊を、二人は全力疾走で駆けた。走るな禁止、と書かれた注意書きはないにしろ、上層部に見られたらただじゃ済まないだろう。

 しかし、礼儀だの規則だのといった常識的なルールは、今は守ってもいられない状況だった。

 クロシマが、ハイソンより数歩早くラボに辿り着き、手を押し当ててセキュリティーのキー・ロックを素早く解除した。彼は勢いよく扉を押し開けると、ハイソンの腕をしっかりと取り引き寄せる。

 二人は、ほぼ同時に室内に飛び込んだ。勢い余って倒れ込む二人を、室内にいた三人の所員が驚いたように振り返った。

 その直後、後方から追って来た化け物が、二人目掛けて開いた扉に顔を突っ込もうと姿を現した。

 半透明の怪物の姿を正面から見た、若い女性所員の甲高い悲鳴が上がり、立ち上った他の二人の男性所員が、咽が締まるような声をもらして後退した。

 研究所のラボ内に、誰かが手に持っていた資料が床に散乱し、それぞれの人間がぶつかった机や機器の上の物が、派手な音を立てて転がり落ちる音が上がった。
 入口に一番近かい床に転がったハイソンとクロシマは、もう駄目かと身構えた。

 その時、大きく口を開いた化け物の顔が、入口から室内に入り込もうとした瞬間、まるで見えない壁に阻まれたかのように潰れた。こちら側に振り上げられた四肢も、室内に僅に触れただけで弾けて砕け散った。

 二頭目が頭突きをするが如く突進して挑んで来たが、ラボの敷地を跨げる事もなく、見えない壁に阻まれるように、薄黄緑色の眼球ごと頭部がグシャリと崩れ落ちてしまった。

 スプラッタな光景を前に、女性所員がとうとう意識を手放した。崩れ落ちる彼女を、隣にいた若い男が慌てて支えた。クロシマが足を使って思い切り扉を締めると、扉の自動ロックが掛かり、閉ざされた室内にようやく静けさが戻った。