はっきりとした体格は視認出来ないが、ひどく汚らしい、大きな顔をした獣だとは見て取れた。眼球があるはずの窪みには、半透明の泥色の球体が押し込められ、耳元まで裂け広がった口には、収まらない無数の歯が伸び放題になって、口の外まで飛び出している。

 エスターが身体を震わせながら、一度だけ、牛ほども大きさのある獣へと目を向けた。それから、ハイソンとクロシマへ視線を戻し、頬を引き攣らせながら、僅かに口角を引き上げた。

「……済まない。俺はもう、駄目だ…………眠って、しまう……」

 ハイソンが声を上げる間もなく、エスターの首が、がくんと落ちた。

 瞬間、半透明の獣が彼に襲いかかった。

 獣は意識のないエスターに飛びかかると、その大きな口を開いて、エスターを丸ごと飲み込んだ。半透明なぶよぶよとした化け物の身体は、エスターに飛び付いた勢いで、顔と胴体が分からなくなるほど潰れてしまい、彼の身体が透明な膜の中で歪むのが見えた。

 獣は、何かしらの液体で出来た身体をしているのか、不思議な事に、飲み込まれたエスターの身体に外傷は発生しなかった。しかし、飲みこまれて数秒も経たずに、エスターの身体が激しく震えたかと思うと、彼の口から白い靄のようなものが吐き出され、そのまま化け物の半透明な身体に滲んで、混ざり合っていった。

 すっかり顔も首も分からなくなった半透明の塊の傍にいた、別の二頭の化け物が、細く開かれた戸に気付いて顔を上げた。

 真っ直ぐこちらに向けられた、泥のような目と視線がカチリと噛み合った。獣の荒い息使いが、水の中から発生られるような響きで空気を鈍く震わせている。