二人は慎重に足を進め、次の角を曲がった。正面に伸びた廊下の先に、自分達のラボへと続く回廊の入口がひっそりと佇んでいた。

 しかし、二人は全く安堵出来なかった。何故か足元には冷気が漂っており、靄のようなものが床の上を覆っていたのだ。

「……寒いぐらいだな。ここは、空調が切れていないのか?」
「空調が切れていた場所は、本来ここには存在しない場所だった、っていうファンタジー的な可能性もありますよね」
「やめろッ、それはファンタジーではなくホラーだ! 無駄に怖くなるだろうが!」
「あれ? でもこの霧って、空調が原因なんすかね」

 クロシマの一言で、ハイソンは、足元に感じる冷気の異変に改めて目を向けた。

 足元には、薄い霧のような靄がかかっている。手で触れるように払ってみると、全く温度も手触りも感じなかった。そういえば、先程から室内が妙に薄暗いが外はまだ日中のはず、とハイソンは訝しんだ。

 その時、再び女の子の笑い声のようなものが、ハイソンの耳に障った。

 先程よりも近く、はっきりと耳に飛び込んで来た声の発生源に気付いて、ハイソンとクロシマは、一つの部屋を同時に素早く振り返っていた。得体の知れない気配の蠢きが、本能を直撃してもいた。