「い、いいいい今、首の後ろがひんやりしたぞッ」
「気のせいっすよ。だいたい、あんたの首の後ろにあるのは俺の腕じゃないっすか」

 二人は言い合ったが、立ち止まり、しっかり背後を確認してしまった。

 そこでハイソンとクロシマは、先程通って来た廊下と風景が異なっている事に気がついた。そこにはラボに向かう為の第三回廊が広がっていた。

 ハイソンは、「ぐぅぅ」と呻き、片方の手で腹を庇った。

「……まるで、化かされている気分だ」
「でもゲーム方式でいけば、きっとこれが正解の通路っすよ」

 クロシマは言うなり、くるりと後方へ向き直って歩き出した。

「前に進むと思っていたら、実は出口への突破口は後ろにあった、とかいう設定、マイナーだけどありましたよ。確か、すぐに廃盤になった裏ルートの奴で、腕のあるハッカーにしか配られていない完全海賊版――ああ、そうそう、うちのラボのメイン・コンピューターの力を借りると、すぐに突破出来ましたねぇ」
「……お前、本当に仕事をしているのか? そんな無駄な事の為に、うちのスーパーコンピューターを日々使っているんじゃないだろうなッ」
「今その心配しちゃいますか。さすがっすね、ハイソンさん」

 汗だくのクロシマに断りを入れ、ハイソンは自分の足で歩いた。

 先程よりも気分が少し楽なのは、一番苦手とするホラーな気分を味わっているせいだろうか。心なしか、足も持つれなくなって来たようだと思った。

 クロシマの推測が当たったのか、後方へと引き返す道のりは、先程と打って変わって彼らが歩き慣れた廊下が続いた。