「ま、あんたの目が覚めてくれたようで何よりっす。ひとまずラボに戻らねぇ事には何も始まらないですし。――これは俺の勘ですが、いますぐ戻らねぇといけないような気がするんですよ」

 クロシマはそう言い、再びハイソンの腕を肩に回したまま歩き出した。

 右へ左へと廊下を進んでも、一向に終わりは見えなかった。空調が切れているのか、室内の温度は最悪だった。二人は次第に汗だくになり、大量の汗が顔や背中を伝い落ち始めた。

「俺達は、悪夢の中にでも囚われちまっているんですかね」
「ああ、あれか。お前が読んでいた『ループするサイコゲーム』のやつ」
「それなら、出口がきちんとあるはずなんですがね」

 クロシマは冷静に受け流した。彼は昔から恐怖物に対しては、本やテレビ画面から出てくる訳じゃないんだからと、周りの連中の怖がりようを共感しない男だった。

 子共の笑い声が、先程より近く背後を通り抜けた。

 ハイソンは思わず「ぎゃッ」と飛び上がった。その拍子に、針を刺すような胃痛が込み上げ、嫌な汗が滝のように噴き出した。