ハイソンの身体を引きずり歩くクロシマは、涼しい顔にひどい玉の汗をかいていた。

「あんた身体が重いんだから、少しは自分の足で歩いて下さいよ」

　いちいち勘に触る物言いをする後輩兼部下だが、まぁ仕方がない。状況が状況なだけに、今回の彼も、冷静一徹の悠長面を下げてはいられないのだろう。

　ハイソンは、半ばクロシマに身体を預ける形で、どうにか歩く事に専念した。

　身体には倦怠感が重々しくこびりついていた。強い眠気で頭の芯が痺れ、四肢から力が抜ける。なんだか蒸し暑くて、ハイソンは思わず、シャツの襟を掴んで風を送った。

　どこまで歩いたのだろうか。

　ハイソンは、朦朧とする目を擦った。見慣れた廊下に並ぶ掲示板や、各部屋の扉、資料室、洗面所、仮眠室――何もかも順番がちぐはぐになっていた。正面に伸びる廊下には、何故か見覚えのない、いくつもの別れ道もあった。

「……おい、クロシマ。こいつは、本格的におかしくないか？」