エル達は、しばし何ともいえない顔で、お互いの姿を唖然と見ていた。沈黙する一同の間で、少年が両手両足を広げて感極まった笑顔を浮かべ、こう叫んだ。

「やったぁ! 地理移動を発動出来たんだ! 俺、こんな事も出来るんだなぁ!」

 少年は感動したように「やれば出来るじゃん、俺」と頬を濡らせたが、――これは落下が始まる前の、一瞬の浮遊に過ぎない。

 エルは我に返り、肩から消えているボストンバッグに気付いて、大慌てで視線を走らせた。それを察したスウェンも素早く目を走らせ、少し離れた位置にあったボストンバッグを、セイジが青い顔で慌てて引き寄せた。

 身体が沈み始めたと感じた瞬間、前触れもなく急速な落下が始まった。

 青い空と海に感動してしまった先程の自分に後悔し、エルは、落下の恐怖に長く甲高い悲鳴を上げた。耳元を切る風で、自分の悲鳴がよく聞こえない。

 一番体重のあるログやセイジが、一同の中で少し先を落ちた。ログは、落ちながら少年の襟元を掴まえると、自身の最速の落下に彼を巻き込んだ。

「バカヤロー! 今すぐどうにかしやがれ!」
「うきょぉぉぉぉおおおおお!? 落ちてるぅぅぅうう!」
「てめぇが落としたんだろうがッ! 早くなんとかしろ!」

 少年は激しく動揺しつつも、何か解決策がないかと表情を目まぐるしく変える。

 その様子を見て、エルは落下の恐怖もあって気が遠くなって来た。このまま海に叩きつけられでもしたら、生身のエルとクロエは、確実にただでは済まないだろう事が容易に想像出来た。