四人の人間と一匹の猫が、声に驚いて彼を振り返った。

 少年は集まる視線を無視し、敵へと意識を集中した。両足の震えが止まらない。かなり怖いが、やるしかないと腹を括る。

 『夢人』として開眼した少年の瞳に、鼠男達を動かす『力』の流れを映し出した。これまで見た事もない、禍々しい赤黒い『力』は太い茨のように絡み付いて、まるで操り人形を手繰る糸のように外の『夢世界』から繋がっている。

 その『力』が、ぐっとうねるのを見て、鼠男達は、すぐにでも動き出してしまうだろうと察した。

 もう、時間がない。

 少年は、己の世界の『力』の波を、一気に足元へと引き寄せた。『夢人』としての本能に従い、この世界を構築する『力』を自身の手の上に集中させた。

             ※※※

 少年が動かし始めた『力』の波は、四人と一匹の目にも映った。

 青や黄や黄緑の淡い光が少年の手元に集まり始め、小さな嵐を呼び寄せた。エル達の身体を荒々しい風が取り囲み、視界を眩い光りの洪水が襲った。その息も出来ぬほど激しい風が身体を打ちつけて、途端に何も見えなくなってしまった。

 数秒後、不意に風が止んで、空気の匂いが変わった。

 エルは、浮遊感を覚えて目を見開いた。先程までとは異なる場所に自分がいる事に気付いた。

 見開いた視界の先には青い空が広がり、遥か眼下には、どこまでも続く広大な青い海が広がっていた。風はすっかり凪いでおり、鳥が呑気な様子で太陽の下を横切っていくのが見えた。

 ああ、上空から間近に見る空って、こんな感じなんだなぁ……

 一瞬エルは、現実逃避のように、そんな事を考えた。状況がすぐには把握出来ず、ほんの僅かな浮遊感と静寂に、嫌な予感を覚えつつ、ゆっくりと首を傾けた。

 そこには、エルと同じように青い空に投げ出された男が三人いた。