「そんな事したら大怪我じゃ済まないと思うし……うーん、盾とトンファーがあれば、どうにかなりそうなんだけどなぁ」
「お前それ、一般人としての対処法じゃねぇだろが。聞いて呆れるぜ」
ほんの数秒、ログが鼠男達から視線をそらし、一番小さなエルの頭を見てぼやいた。しかし、その光景を想像した彼の口角は、薄らと引き上がってもいた。
エルは、シャツの胸元を握りしめる少年を、肩越しにちらりと振り返った。大切な物を盗られるのではないかと怯える瞳と、ふと視線がぶつかった。
ああ、彼は戦えない子なのだ。
数歳年下の風貌をした彼を見て、エルは、年上としてしっかり守らなければ、という妙な使命感を覚えた。
「大丈夫、俺が守るよ」
少年の目をしっかり見つめて、エルは肯いてみせた。敵を見据えたまま、スウェンが余裕のない表情に強がる笑みを浮かべ、「恰好良いねぇ」と口笛を吹いた。
「だから信じてよ」
エルは緊張を悟られないよう拳を固めながらそう言い、安心させるように笑いかけてから、鼠男へと向き直った。
※※※
少年は、自分の周りを囲うように立つ人間達の、大きく見える背中を眺めた。
なんの力も持たないただの人間が、死の概念もない自分を、守ろうとしているのだ。そう思うと、奇妙な感覚が少年の中に込み上げた。
平気だよ、俺はただの『夢人』だから、怪我をしたって血は出ないし、自分の身体を覚えていれば、すぐに再生出来るのだから……
けれど少年の唇は震えるばかりで、人間達に声を掛ける勇気も出て来ない。
少年は『夢人』として、初めて苦悩を覚えた。守られたいなんて、彼は望んだ事はなかった。誰かが傷つくのを見るのが嫌で、どうしたらいいのか、どこへいけばいいのかと思考が空回りする。
「お前それ、一般人としての対処法じゃねぇだろが。聞いて呆れるぜ」
ほんの数秒、ログが鼠男達から視線をそらし、一番小さなエルの頭を見てぼやいた。しかし、その光景を想像した彼の口角は、薄らと引き上がってもいた。
エルは、シャツの胸元を握りしめる少年を、肩越しにちらりと振り返った。大切な物を盗られるのではないかと怯える瞳と、ふと視線がぶつかった。
ああ、彼は戦えない子なのだ。
数歳年下の風貌をした彼を見て、エルは、年上としてしっかり守らなければ、という妙な使命感を覚えた。
「大丈夫、俺が守るよ」
少年の目をしっかり見つめて、エルは肯いてみせた。敵を見据えたまま、スウェンが余裕のない表情に強がる笑みを浮かべ、「恰好良いねぇ」と口笛を吹いた。
「だから信じてよ」
エルは緊張を悟られないよう拳を固めながらそう言い、安心させるように笑いかけてから、鼠男へと向き直った。
※※※
少年は、自分の周りを囲うように立つ人間達の、大きく見える背中を眺めた。
なんの力も持たないただの人間が、死の概念もない自分を、守ろうとしているのだ。そう思うと、奇妙な感覚が少年の中に込み上げた。
平気だよ、俺はただの『夢人』だから、怪我をしたって血は出ないし、自分の身体を覚えていれば、すぐに再生出来るのだから……
けれど少年の唇は震えるばかりで、人間達に声を掛ける勇気も出て来ない。
少年は『夢人』として、初めて苦悩を覚えた。守られたいなんて、彼は望んだ事はなかった。誰かが傷つくのを見るのが嫌で、どうしたらいいのか、どこへいけばいいのかと思考が空回りする。